(オープニングジングル)
太刀川:
皆さんはじめまして、太刀川英輔です。NOSIGNERというデザイン事務所の代表をしています。今回、『進化思考』っていうタイトルの本を出したんです。この本はですね、海士町っていう人口2,200人の離島に初めてできる出版社から出た本なんですけど、大きく言えば、創造性を自然科学として構造化するっていうことに挑戦する、そんなちょっと壮大なテーマをもとに書いた本です。なので今回から6回に渡って、この進化思考について紹介していこうかなと思うので、どうぞよろしくお願いします。
じゃあ、まずは僕の自己紹介から始めたいと思います。あの僕、先ほどNOSIGNERの代表の、というふうに申し上げましたが、デザイナーです。広い意味でデザイナーですね。まあ、いろんなものを作るんですけど、1番最初の最初は建築家でした。建築家を目指して、国立競技場を立てた隈研吾さんという人がいますけど、彼の研究室にいたんですが、その間に「どこからが建築かよくわからんぞ」となって「テーブルも建築なんじゃないのかって」思って家具デザイナーになり、「壁に貼ってあるポスターとかは建築なのではないか」となってグラフィックデザイナーになり、で、いつの間にか色々なデザインを手がけるようになりました。でも「別に形ばかりがデザインの話ではないぞ」となって、例えば政策を作るとか、企業の新規事業のコンセプトを作るとか、いろんなプロジェクトをするようになってしまったっていう、そういうデザイナーです。
まあ、今、自身のステータスで言うと、一応日本で1番歴史があるデザインの業界団体で、JIDA、日本インダストリアルデザイン協会ってところなんですけど、そこの理事長も兼任しています。でもまあデザイナーだから、当然いいデザインを作れるようになりたいです。できれば世界最高のデザイナーになりたいぞ、という青い夢をまっすぐ追いかけているつもりなんですけど、何事もそうなんですけど、その対象、つまり僕で言うところの「デザイン」って一体何なのかってのがわかんないと、上手くなりようがないなと思うわけなんですね。僕、ちょっと考えすぎるたちなので、デザインとは何かっていうと、もっと難しく考えてみれば、皆さん多分これ聞いてるのどこかのお部屋の中とか街の中とかだと思うんですけど、今目に入っている人工物、全部デザインなんですよね。どっからどこまでがデザインなのか、ちょっともう本当わかんない感じです。
ここにはもちろん人の創造性っていう背景があって、そういう創造性って一体何なのか、デザインって何か、ということを考えれば考えるほど、考えざるを得なくなっていって、しかもこの創造性というのがなかなかやっかいなもので、皆さんもなんとなくわかると思うんですけど、コンプレックスの種になりませんか? 創造性って。なんかできる人とできない人がいるみたいな感じになりがちなテーマでもあって。でもなんかそこに、もしちゃんとしたやり方があるんだったらみんなできるようになるかもしれないし、僕も上手くなりたいし、そうするとまともに教えられてないものだなと思うわけ、創造性って。そういうことがあって、この創造性っていうものをちゃんと理解しないといけない。そして理解できるということは、科学としても理解しないといけない、ってだんだん思い込むようになっていって「絶対解き明かしてやるこの謎の現象を、創造性というやつ」というふうになっていきました。
それで、結局結論から申し上げると、生命の進化、生物の進化と、創造性という現象。僕は自然界で唯一、創造性に似てる現象が進化だと思ったものですから、そこから読み解いて「進化思考」という、創造性を読み解くには、そこからはじめていくといいんじゃぞっていう、そういう思想にたどり着きました。それを今までも色んな企業とか大学とか、いろんなところで教えてきたんですけど、それがようやく本にまとまったぞ、っていうのが、今回から紹介して行く『進化思考』っていう本です。
まあそんなわけで、生物の進化と僕らの創造性という現象がすごく似ているっていうことが、だんだん個人探求によってわかってくるんですけど、ちょっとそれ以前にお話したいこととして、どういうことかって言うと、要するに優れたアイディアは誰にでもだせる手段があるっていうことだし、しかも創造性にコンプレックスを持たなくても、みんな創造的になれる方法はちゃんとある。僕は自分を創造的にしたいわけだから、そういうことに気づいたら他の人に喋ったり、本に書いたりする必要はないんだけど、あるときにちょっと気づいたんですよね。何に気づいたかというと、一生の間に作れる作品数に限界があるってことに気づきました。皆さん数えたことありますか? どれぐらいのプロジェクトに自分が一生の間に関われるかって。僕はね、計算したら数百個でした。数百個、まあ一年間に10個とか20個とか作って、50年間頑張ると数百個です。もっと頑張る人もいるかもしれないけど、まあ多くの人はまあそれぐらいですよ。
そうすると、例えば社会にいっぱい課題があるとか、目の前でもっとこうしたら良くなりそうだとか、そういうものの数って無数にあるわけじゃないですか。そうすると、僕が自分の数百個のために、そういう知を抱えててもしょうがない。むしろたくさんの人が創造的になるっていうところにかけた方が、人口は2050年ぐらいになると90億人を突破すると言われていて、そうするとその中の1%くらいの人が一生に1個プロジェクトを増やすだけで、それは約1億個のプロジェクトが生まれることになるから、もし僕らが創造性をちゃんと教育に出来てないなら、それこそ僕らが今探求するべき事なんじゃないのと、今いろんな意味で、読みにくい世の中とも言われているし、課題ばかりの世の中といわれている中で、それにタックルする人が増えた方がおもろいって僕は思ったんですね。そういうことがあって、半分デザイナー、半分創造性教育者っていう形でずっと仕事をしているのが僕です。表立ってはね、デザイナーとして知られていることが多いかなとは思います。
さて、じゃあまあそんなわけで、なんとなくわかったよ進化思考が生まれる背景……この辺の話についても、なんとなくいろんなところで喋ったり、進化思考の本にも書いたりしているので、ぜひ見てみてほしいんですが、じゃあその進化思考って一体何ですかっていう話を、これから少しして行きたいと思います。
まず進化思考について話すためにはいくつかのことをちゃんと前もって説明しないといけない。もちろん1つは生物の進化についてなんですね。生物の進化ってどういう現象か、皆さん知ってますか? なんかね、ダーウィンとかそういうやつですよね。はい、なんであれが革命的だったのかって、皆さんなんとなく知ってますか? 人間が昔サルだったみたいなのを証明したからっていうことかな? うん、そうなんですが、あれが革命的だったことを挙げるとですね、それまでは全ての自然物はめちゃくちゃ良く出来すぎてるから神様が設計したと思われてたんです。自然神学とかって言うんですけどね。なんだけど、それが実は誰も何もデザインしなくても、勝手にデザインされたものだよっていうのが進化論なんです。つまり、進化論のカウンターってデザイン論なんです。さっきの神様がデザインしたということを指してデザイン論というふうに言うんですね。これは1700年代の後半とかにそう言われていたわけです。そこに、「いや、すげえデザインだけど、確かにそれが自動的に勝手に生まれてくる仕組みがあるってことなんですよ、っていうことを看破したのがダーウィンであり、ウォレスであり、その後の自然選択説であった。
つまりデザイナーであるところの僕はここで思うわけです。「え、すげえアイディア、やばいアイデアって考えなくても出るってこと? それすごくないですか?」って。でも確かに僕らは、例えば太陽光パネルをすっげえ頑張って考えてる人がいても、葉っぱとかもまじですごいっていう話になるし、ロボティクスすげえ頑張ってる人がいても、バッタの足とか見ると、もうマジ気絶するほどすごいみたいな話になるわけなんですよね。自己再生するのかよみたいな、どうすんだよそれみたいな感じですよマジで。ということなので、つまりそこの道にはデザイナーとしての夢であるところの、僕がデザインしなくても勝手に凄いデザインが出てくるんじゃないかっていう話があるわけです。
当然そういうことがあって進化論が気になっていくわけなんですが、まずこの生物の進化の仕組みっていうのは一体どういう仕組みなのかというのをちょっと説明します。まずですね、「変異」っていう仕組みがあるんですよ。これは卵から全部違う形が生まれてくるって仕組みです。 つまりこれはエラーですね。DNAのコピーエラーで、なんか今までと違うものにちょっとなっちゃう。たまに手がなかったり、指が増えたり、たまに首が長かったりする。偶然ですこれ。もう1個の仕組みがあります。これが「適応」の仕組みで、これ長い時間を掛けて、足が速めのやつとか、首が長めのやつとかの方がちょっと生き残りやすいっていうことが、それもまた偶然その場所に合ってたってことなんですけど、それに適応してた個体の方が生き残りやすい。完全に適応してるものが生き残るってわけじゃないんだけど、生き残りやすい傾向が何世代にもわたって続くと、だんだん首が長いやつの子供がもっと首が長くなったりしていくということが起こるわけです。
そうするとちょっと良かったっていうのが積算されて、めちゃくちゃよくなっていくっていうことが起こる。これが自然選択です。だからエラーで毎回ランダムに個体差が発生する。その個体差がだんだん適応の圧力によって、種差にまで広がっていくというか、生存戦略で別れていく。この繰り返しで勝手にデザインされていく。これが進化です。じゃあ僕らの頭の中はどうなっているでしょう? 僕らの頭の中も同じような構造だとしたらどうでしょう。つまり僕らはエラーを起こしている。そして、僕らはそれを何らかの適応圧で選択している。この2つに分けて僕らの頭を語ると、一体どういうふうに創造性って説明できますか? っていうのが進化思考です。
さて、じゃあまあそんなわけでですね。これから今回含めて6回にわたって進化思考をちょっと追っかけていこうかなと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。以上、太刀川英輔でした。
(以上書き起こし終了)
1. 進化思考とは何か
2. 変異のパターンその1
3. 変異のパターンその2
4. 適用の4軸その1
5. 適用の4軸その2
6. 生命に学ぶ創造性の本質
太刀川英輔
デザイン・ストラテジスト
NOSIGNER代表。慶應義塾大学特別招聘准教授。プロダクト、グラフィック、建築、空間など様々な領域で活躍。主なプロジェクトに、O L I V E、東京防災、PANDAID、山本山、横浜ベイスターズ、関西万博日本館基本構想などがある。今年日本インダストリアル協会の理事長に就任。最新著書に『進化思考』(海士の風)がある。