今日リリースされるのは、リクチュールの廣瀬瞬さんです。
「リクチュール」を皆さんはご存知ですか?
スニーカーのカスタマイズをする工房です。市販のスニーカーを修理するというより、独自のデザインでカスタマイズし、世界で一つのスニーカーをつくり出しています。いまや顧客の半分は海外の人で、この靴を求めて東京を訪れる外国人もいる、知る人ぞ知る、アーティスティックなスニーカーなんです。スニーカーのカスタマイズを切り開いたいパイオニアでもあります。
と、偉そうに説明する僕も、VOOXチームのU Xデザイナーに教えてもらうまで知りませんでした。大量生産で生み出されるスニーカーが、リクチュールの手にかかると世界で一つのオンリーワンの商品に生まれ変わる。しかも使い捨てだと思われていたスニーカーが蘇る。こういうクリエイティブを発揮される代表の廣瀬さんにぜひVOOOXに出てもらおうと、早速、出演依頼を開始しました。が、ここから「すんなり」ではありませんでした。
依頼のメッセージを出して「一度話を聞いていただきたい」とお伝えしたのですが、2週間経ってもお返事をいただけません。再度ご連絡したところ、お返事をいただくことができ、zoomで打ち合わせとなりました。
最初のzoomで廣瀬さんは「なんで、僕に依頼されたんでしょうか?」と。ここまでの経緯を話すも「いやー、僕なんか違うような気がするんです」と全く受けてもらえる雰囲気はありません。おまけに「人前で話すのがそもそも得意じゃない人間だから、こういう仕事をしているんです」と。僕らの形勢は明らかに不利ですが、「なるほど、口じゃなく手で語るのが職人か!」とちょっと感銘も受けました。でも感心している場合じゃない。「先日、ラジオに出ておられましたよね?」と反撃開始すると、「あれはたまたまだったんですけど、楽しかったですね」と。このあたりから話しが弾み始めました。
結局この日は結論が出ず、後日また相談させていただくことになりました。最後に廣瀬さんは「今日は90%お断りしようと思っていたんですが」と。「では、今時点で可能性はどのくらいですか」と聞くと、「そうですね、50%くらいですかね」と。正直な方です。僕らに希望が見えました。
その後もzoomは何回かしましたが、廣瀬さんはまだイメージが湧かないようです。それでも、「どうやってデザインを決めるんですか?」など作業の具体的な話をお聞きすると、驚くくらい饒舌になられます。しかも言葉遣いが独特で、クリエイティブでクラフト的な仕事をしている方ならではの感性が伝わってきます。そんなやりとりの中、いつしか廣瀬さんは降参してくれたのか、「やることになりそうですね」と承諾くださいました。
実は、廣瀬さんのお店は、僕らVOOXのオフィスから歩いて5分ほどのところにあります。ちょうど新作が出ると言うので、打ち合わせが終わった後、僕ら3人でお店を訪問しました。初めて実際にお会いした廣瀬さんは、物静かで柔らかい雰囲気をまとった方でした。置いてある商品を一つずつ丁寧に説明してくださる。しかも押し付けがましくなく、必要なことだけ説明してくれる。初めて見た廣瀬さんデザインの靴はスニーカーらしさを残した革靴とでも言いましょうか。カジュアルで洗練されていて、スタイリッシュ。勢い余って、僕ら3人はその場で注文してしました。(いつか届いた靴を披露させてください)
実際に収録でも、この押し付けがましさがなく必要なことをきちんと話される廣瀬さんらしさがよく出ていました。あれだけ「僕が話すんですか?」と仰っていたにも関わらず、言葉遣いも細かく吟味されるし、そもそも形容詞が独特です。靴と向き合ってこられた中から出てきた感性、そして言葉。そこにデザイナーであり職人である廣瀬さんが見事に浮かび上がっていました。収録はなんと2回にわたりましたが、職人のこだわりが垣間見れました。
ひょっとしたら廣瀬さんは自分の感じていること、考えてきたことの半分も言えなかったかもしれません。それでも、スニーカーのカスタマイズという分野を切り開いた第一人者の言葉に力があります。リクチュールの靴をご存知ない方も、想像しながら聞いてみてもらえれば幸いです。
2021/9/21 VOOX編集長 岩佐文夫