【書き起こし】 小倉広さん 「任せる技術〜自分でやった方が早い病への処方箋」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「『自由にやれ!責任は俺が取る!』と言ってはいけない」を完全書き起こしで紹介。組織人事コンサルタント/心理カウンセラーの小倉広さんが、部下に仕事を任せられるようになるための心構えと手法を解説します

(オープニングジングル)

小倉:

皆さんはじめまして、組織人事コンサルタントの小倉広です。今回よりお送りする「任せる技術〜自分でやった方が早い病への処方箋」では、部下や後輩に仕事を任せることで、相手も、そして自分も成長する方法について一緒に考えていきたいと思います。

まずは今日は初回なので簡単な自己紹介から始めます。私は大学卒業後、新卒でリクルート、その後パッケージソフトのソースネクスト、その後コンサルティング会社などを経て、現在は本を書いたり、講演をしたりといったリーダーシップ、そしてコミュニケーションの専門家として活動しております。今日のテーマも含め、私が今本に書いたり、お話をさせていただく内容は、リクルート時代に自然に身につけた考え方や、もしくは、高いモチベーションで人がどんどん育っていく組織のカルチャーやコミュニケーションを、体で体験して身につけたことです。これらを活かして、いろんな企業さんにアドバイスをしている、これが現在の私の仕事です。

今日のテーマである「任せる技術」です。私自身がリクルートで成長できたのは、たくさんの難しい仕事を次から次に任せていただいたこと、これに尽きると思います。そして私が経営者として社員や部下を育成したことも、やはり任せることで彼らがグンと成長したな、ということを強く実感しております。

この全6回のシリーズでもお伝えしてまいりますが、任せることは諸刃の剣です。そしてはっきり言うと、ハイリスク・ハイリターンです。たくさん大きな責任を任せれば、人はグンと伸びますが、やり方を間違えてしまうとお客様に迷惑をかけたり、もしくは本人が大きな失敗で立ち直れなくなったりするというリスクがあります。そういう意味では、私自身もそういった失敗を繰り返してきました。

「任せる」とは?

では、第一回目。今日のテーマは「自由にやれ!責任は俺が取る!」と言ってはいけない、というタイトルです。どうでしょうか、皆さん。テレビドラマや映画でかっこいい上司がよく言うセリフ「自由にやれ!責任は俺が取る!」。もしかして言ったことがある人はいるんじゃないでしょうか? 私は、このセリフは言ってはならないと思っております。それはなぜでしょうか?

まず最初にこの結論に至る前に、そもそも「任せる」っていうのはどういう意味があるのか、という定義からまいりたいと思います。皆さん仕事任せてますか? 何をしてますか、任せる時に。任せるを辞書を引いて定義を見て行くと、面白いことがわかります。つまり任せるというのは、本来やるべき人が、誰か相手に「仕事」と「ホニャララ」と「ホニャララ」の3点セットを渡すことということが辞書に書いております。さあ、皆さん、何を渡しているんでしょうか?

まず「仕事」を手渡しする、これは当然のことです。「はい、この仕事お願いね」。でも、これは任せたことにならないんです、あと2つ必要なんですね。その2つの答えとは「自由」と「責任」です。つまり、任せるとは相手に「自由」と「責任」と「仕事」を渡すこと。文章にするとこうなります「任せるとは、相手の責任において自由にやらせることである」。こういうことです。そういう意味では必ず3点セットがなければ任せたことにならないんですね。

例えば、ここで自由がなかったらどうでしょうか。「1回あなたにこの仕事を任せるよ。必ずしっかりやり遂げてね。失敗したら貴方の責任だよ。だけど、やり方は全部僕が決める。あなたに一切自由はない。言われた通りにやって失敗したらあんたの責任だよ」……どうでしょうか? モチベーション上がりますか? 納得できますか? おかしいですよね。上司に言われた通りやって失敗したら上司の責任ですよね。これでは部下は無責任になります。

逆いきましょう。「1回あなたにこの仕事をやっていただくよ。貴方は一切自由にやってください。なんの制限もない。好きなようにやりなさい。失敗したら僕が全部責任取ってあげる。あなたは何の責任も取らなくていいよ」……どうですか? こちらは先ほどに比べて腹が立ったり、嫌な気持ちがすることは少ない。反面、なんだかちょっと子ども扱いされているような気がしませんか? ちょっとバカにされてるような気になる人もいるかもしれない。僕だったら、つまらないなと思います。やっぱり仕事ってのは責任を伴う、そして責任を果たすことで大きな達成を感じる。この達成感を大きく感じた時に人はグンと成長するんですね。そこに責任が無い。ただ、自由に遊びのようにやっているところでは、人は成長しません。

もう一度元に戻します。任せるということは、仕事をただ渡すことではなく、相手の責任において、できるだけ相手に自由にやらせる。つまり仕事・責任・自由、この3点セットがあって初めて任せるというわけです。さあ、皆さん、今まで任せていたことは、この3点セットが必ずあったでしょうか?


会社を辞めても責任は取れない!

さあ、先ほどから繰り返しているキーワード「責任」です。この「責任は俺が取る」もしくは「責任はあなたが取ってね」。この責任という言葉も、これまた大きな誤解を生んでいる言葉なので、定義が必要です。責任をとるってどういうことでしょうか? 先程のテレビやドラマや映画に出てくるかっこいい上司がよく言うセリフ、「自由にやられ、責任は俺がとれる」これは明らかな間違いですが、これと同様に、世の中に大きな誤解を与えている台詞が「責任を取る」ということです。

皆さんもしかして「責任を取る」とは会社を辞めることだと勘違いしてないでしょうか? これは大きな間違いです。会社辞めることが責任を取ることではありません。会社を辞めることは、責任を放棄することです。じゃあ責任って何でしょう? 責任を英語で見てみると、レスポンシビリティ(responsibility)という言葉になりますね。このレスポンシビリティを分解すると、レスポンス(response)とビリティー(bility)という2つの言葉に分解出来ます。レスポンスとは「応える、応答する、対処する」という意味です。つまり、相手の期待に応えたり、相手の要望に対処して行動をとることがレスポンスです。そしてビリティーというのは可能性。英語で、「I am  responsible for ホニャララ」と言った場合、「私はホニャララに対処します」という意味になるんです。ということは、どういうことか? 責任を取るというは、対処するということなんです。つまり、やるといったことをやりきること、これが責任を取るです。責任を部下に取らせるとはどういうことか、部下がやりますと言ったらやらせることです。逆に言えば、部下から仕事を奪ってはならない、中途半端に取り上げてはいけない、ということが言えると思います。

私たちが日常よく使う言葉の1つに「巻き取る」という言葉があります。例えば、部下のAさんに「この仕事お願いね」と言ってお渡しし「任せしますよ」と言っておきながら、いざ任せたものの心配になって様子を聞きます。「どう? Aさんうまくいっている?」「いや、それがなかなかうまくいかなくて、ちょっと進んでないんです」「あっそう、じゃあいいよ。僕が残りやってあげるね。僕が全部やるよ」これを「巻き取る」と言います。で、これをやるということは、さっきの最も大切なレスポンシビリティを奪い取っていることになるんですね。つまり、部下に責任を取らせて無いことになる。じゃあ、どうすればいいか?

「どう進捗? Aさんうまくいってる?」「いや、どうもうまくいってないんですよ」「あ、そうかうまくいってないのか。 どうしようと思ってる? どうすればいいと思う?」このように相手から奪い取らずに、相手に考えさせることです。よくある上司のもう1つの失敗、それは答えを言っちゃうことですね。「Aさんどう? 任せてる仕事進んでいる」「いや、うまくいってないんですよ。困っちゃってるんですよね」「あ、そういうときはこうしたらいいよ。ああしたらいいよ」……この瞬間に、責任を上司が奪い取っているんですね。

そうではない。その時も粘ることです。「小倉さん、どうもうまくいかないんですよ。困ってるんですよ」「そう、それは困るなあ、どうしようと思う?」「いや、ちょっと分からなくて」「わからないけど、考えてほしいんだよね。もし良ければ後でちょっと相談に乗るから。こうしたらいいと思う考えの案を持って後で来てくれる? 一緒に考えよう。その代わりまず自分で案を作ってほしいんだ。なぜならば、あなたに任せた仕事だから。僕はサポートしかできないんだよ」こういうことですね。つまり与えた責任、やるといったことをやりきること。これを上司が途中から巻き取ってはいけない。これが実は「任せる」でとても大事なことであり、これは部下に冷たいのではなく、部下を信じること、部下の可能性を信じること、部下に責任を取らせるチャンスを与えることなんですね。ただし、ほったらかしではいけません。必ず一緒にやっていくという、そういう気持ちを持つことが大事です。

ということで、責任が大きいほど人は育ちますが、先ほど言いましたように、私の体験でもありますが、あまりにも大きな責任を与えると相手が潰れてしまいます。これはいけません。ですから「任せる」について実は1番難しいのは、相手が取れるギリギリ大きな責任を与えること。ただし超能力でもなければ魔法使いでもないので、適正な値をすぐにわかるわけでありません。そこはやはり試し試し、相手と距離を詰めながらやっていくしかないんじゃないかな、と思います。


「自分でやった方が早い」は病気

残り2つです。「自分でやった方が早い」。これもよく聞くセリフですが、私はこれを「自分でやった方が早い病」というふうに、病気として命名しております。私もかつて重病患者でした。自分がやったほうが早いといつも思っていました。しかしこれは、短期的な目線しかないということなんですね。つまり、中長期を考えれば明らかに人を育てた方が早いんです。自分一人でいつまでも走り回ってるのは遅いんです。ところが、自分でやった方が早いと考えている。これはどういうことか、 短期しか見てない。2年後、3年後を見てない人のセリフです。

つまり、「自分でやった方が早い」って人は、自ら「私は短期の目先しか見てません。中長期なんて考えてません」と言ってるも同様なんですね。ということは、これはもう明らかに病気です。そういう意味では、我々は「自分でやったほうが早いという病気」にかかっていることを自覚し、そしてこの台詞を言った瞬間に「あ、私は目先しか見てないんだな。まだまだ管理職失格だな」こう思っていただいたほうがいいと思います。

最後に、私が育てていただいたリクルートでよく聞く、上司から聞いた言葉を伝えて終わりにしましょう。リクルートでは「課長どうしたらいいですか?」と言うと、あらゆる課長が同じ答えを返します。それは「おまえはどうしたいの?」この一言です。つまり、リクルートという会社、まさに巻き取らない、相手に自分で答えを出させる。そして「どれが正解ですか?」という質問を立てない。「おまえはどうしたい?」。つまり、「Want to do」を聞くわけですね。「Have to do」を聞かない「Want to do」を聞く。そして部下が「Aでやりたいです」って言ったら「そうか、それでやれ」と言う。つまり部下は、自分でやりたいって言った以上、やるしかないんですよ。だからそれを上手に使っているのが、リクルートさんの「おまえはどうしたい?」の一言です。

このような、いろんな企業の例なども出しながら、この後6回で皆さんと学んでいきたいと思います。最後になりますが「自由にやれ、責任は俺が取る」。これは部下の責任を奪い取る、部下の「任せる」を奪い取る、言ってはいけないセリフだということです。ぜひこの言葉を思い起こしていただいて、みなさんの部下育成、そして自分自身が成長する糧にしていただければと思います。

今回は「『自由にやれ!責任は俺が取る!』と言ってはいけない」をテーマに、お伝えしました。ではまた次回お会いいたしましょう。小倉広でした。

(以上、書き起こし終了)

「任せる技術〜自分でやった方が早い病への処方箋」  全6話 60min

1.「自由にやれ!責任は俺が取る!」と言ってはいけない

2.「部下が成長してないから」任せられない、は嘘

3. いつ任せるの?今でしょ!

4. ALL or NOTHING の振り子を行ったり来たり

5. 全員平等に任せてはいけない

6. 人材育成の側面から見た任せる技術​​

​​小倉広

青山学院大学経済学部経済学科卒、新卒でリクルート入社。就職情報誌の事業企画、商品企画、営業企画、編集部、組織人事コンサルティング室課長など主に企画畑で12年過ごす。その後、現東証一部上場のソースネクスト常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。企業研修講師、心理カウンセラー、ビジネス書作家。

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