(オープニングジングル)
小城:
皆さんはじめまして、Tably株式会社の小城久美子です。今回よりお送りする「プロダクトマネージメント入門」では、プロダクトマネジメントとは何か、そしてその役割とは何かなど、役職がプロダクトマネージャーである方やそうではない方にも向けて、プロダクト、つまり何らかのモノやサービスを提供されている全ての方にとって、何かプラスになるようなプロダクトマネジメントの考え方を解説しようと思っております。
本日は初回ですので、私の自己紹介からお話させてください。私は、もともとは株式会社ミクシィでプログラマー、ソフトウェアエンジニアとして広告を作る仕事をしていました。その後「家族アルバム みてね」という家族向けの写真を共有するようなサービスを作り、その後、LINE株式会社に転職をしてLINEメッセンジャーのAndroidアプリのエンジニアを担当しておりました。しかしながら、どのようにプログラムを書いて、どんなアプリを作るのか? みたいなところから興味関心がどんどん移っていきまして、自分が作ったプログラムでどのように人を幸せにできるのか? そういったところに興味を持つようになり、ソフトウェアエンジニアからプロダクトマネージャーに転身をいたしました。しかしそこでで、私は多くのプロダクトの新規事業立ち上げを経験したのですが、うまくいったことや、うまくいかなかったこともたくさんあり、現在は一度そのプロダクトを作る方法論に向き合いたいと考えるようになり、現在のTably株式会社に転職をしております。
現在の主な業務は、企業様向けにプロダクトマネジメントの研修をさせて頂いたり、プロダクトマネージメントというなかなか体系化されていないものの体系化に挑戦する、といったことを実施しております。そしてその体系化した結果が、この2021年3月に翔泳社から『プロダクトマネジメントのすべて』という名前の書籍で出版しております。こちらは現在所属しているTably株式会社の代表である及川卓也さん、そして曽根原春樹 さんという方との共著で出版をさせて頂きました。本日のこちらの話も、そちらの書籍の話にも触れながらさせていただければと思っております。少し前段が長くなってしまいましたので、プロダクトマネジメントの話を始めていきましょう。
ではなぜ今、プロダクトマネジメントは必要なのでしょうか? そもそもプロダクトマネジメントとは、一言で言うとプロダクトを成功させるための手段です。そしてここ数年で、プロダクトマネージメントという概念やプロダクトマネージャーという職種が、特ITの業界でよく語られるようになってきました。これは今、市場の構造が変わってきていて、世界が変わってきているという背景があるからです。もう今となっては10年も前の話になりますが、マークアンドリーセンというとても有名なエンジニアかつ投資家の方は「Software is eating the world」という言い方をしました。これは日本語に直すと「ソフトウェアが世界を飲み込み始めている」ということを表しています。これはどういうことか、少し噛み砕いてお話をしてみましょう。
もともと皆さんは本を買うために本屋さんに行っていたと思います。わざわざ本屋さんに行って欲しい本を探して、購入して家に帰る。そういった今までしていた行動というものが、今はECサイトというソフトウェアを使って、いくつかのクリックをするだけで済むようになっています。そして、このコロナ禍で凄く力をつけてきたのが、いわゆるフードデリバリー・プロダクトというようなものがありますよね。元々は「出前」という概念でした。各お店が電話を受けて食事を届けるということを、各お店ごとにやっていたもの、そこにフードデリバリー・プロダクトというソフトウェアが入り込んできたというところで、今まで概念だったものがプロダクトになってきている。
このように今までの市場構造というものが、ソフトウェアによって変えられてきている、そういった背景があります。そしてソフトウェアに飲み込まれている世界の方も、今どんどん変わっています。 今の時代はよくVUCAな時代だと言われますよね。V・U・C・Aは各々以下の略語のことをさします。VUCAな時代のVはVolatility(ボラティリティ)=変動性。UはUncertainty(アンサーティニティ)=不確実性。Cはcomplexity(コンプレキシティ)=複雑性。AはAmbiguity(アンビギュイティ)=曖昧性。この4つの言葉の略として、VUCAな時代という言い方をします。
10年前に言われていた「ソフトウェアが世界を飲み込み始めている」というような時に言っていたソフトウェアの作り方というのは、初めにどのようなソフトウェアをつくるのかというところを、大きな計画をして、大きなソフトウェアをつくる。そしてお客さんに届けるというような、いわゆる水が流れるような「ウォーターフォール型」の開発というような作り方をされていました。しかし今、ソフトウェアが飲み込み始めている世界の方がとても不確実で、複雑でどんどん変化して行く時代が来ているんですね。なので、その世界に対してソフトウェアをつくるやり方、というところもどんどん変わってきていて、そのソフトウェアを使ってどんどん早く変わっていく世界というところに乗っかっていく、というような姿勢も重要ですし、自らソフトウェアを使って世の中を変えていかなければいけない、そういった風潮が今あります。
こういった時代背景の中で、プロダクトマネージメントというものが非常に今求められているというのが現状です。そしてそのプロダクトというものを私たちは作り、マネージメントをしていかなければいけないんですけれども、今お話したとおり、世の中というのはどんどん変わっていってしまいます。しかしながら、プロダクトをどうして提供するのかというところに関しては、強い軸を持っていなければいけません。そうでなければ、どんどん変わっていく世の中に対してプロダクトがただ流されてしまいます。そのため、世の中の変化をきちんと知り、それに対してユーザーさんがどういうような気持ちの変化があるのか、というところもきちんと理解をした上で、一気通貫性を持たせ、自分たちがどんな人をどんな状態にしたいがためにものを作っているのか、そういったマインドセットをしっかり持ち続けてプロダクトを作るということが重要になってきます。
今回のお話では、特にソフトウエアを用いたものは、ハードウェアの場合にもソフトウェアがあるようなものの一部という所を対象にしています。その理由としては、今ハードウェアもIoTと言われるように、いろいろインターネットにつながっているものが出てきています。インターネットにつながっているということは、ハードウェアであったとしても新しいソフトウェアの機能をどんどん更新することができて、今この変わりゆく時代の中で、時代の変化に合わせたソフトウェアプロダクトを提供することができる、というような流れがあります。そのため、今この流れの速い時代の中で、ソフトウェアとしてのプロダクトを提供することで、どんどん世の中の変化に追随することができるようになっています。
今、私はプロダクトはソフトウェアだというような言い方をしたんですけれども、ただプロダクトマネージメントという話をした時に対象とするのは、ソフトウェアの範囲だけではないんです。プロダクトマネジメントの対象は、そのソフトウェアを使って、どんなユーザーさんをどういう状態にしたいのか、どういったビジョンを達成したいのか、というそのソフトウェアから始まるプロダクトを使ってどんな「アウトカム」と言われるような結果を出すのか、どんな状態を実現するのか、というところにまで派生します。
そのため、プロダクトマネジメントと言った時に、ただそのソフトウェア単体を指す狭義の話をしているわけではなく、このプロダクトマネージメントというのは、一般的にはマーケティングと言われるような、ユーザーさんにどのようにプロダクトを届けていくのかだとか、届けた後にどんな世界を作るのか、そういったところまで広げてマネージメントをするというような考えになります。そのため、ただ作ったソフトウェアというものではなく、きちんとユーザーさんがどういうふうに考えられて、どんな背景でそのソフトウェアが使われるのか、というようなところをしっかり知る。そして、それに対してソフトウェアを提案することで、ユーザーさんのビジョンを満たす。そういったところが、プロダクトマネージメントにおいて非常に重要な考え方になっております。
これらを踏まえて、今回はプロダクトマネージメントのさわりの部分のみのお話となりましたが、次回からはプロダクトマネージメントについて深くお話をしていければと思っております。以上、小城久美子でした。ありがとうございます。
(以上、書き起こし終了)
1. そもそもプロダクトマネジメントとは
2. プロダクトマネージャーの役割
3. 「ユーザーの言いなりにならない」
4. プロダクト志向なチームをつくる
5. プロダクトは何を指標にするか
6. プロダクトをつくることは仮説検証だ
小城久美子
『プロダクトマネジメントのすべて』共同著者。
消費者向けサービスを提供するWeb系企業で、いくつかの新規事業の立ち上げなどにエンジニアとして携わる。どう作るかより何を作るかに興味関心が移り、プロダクトマネージャーに転身。2019年よりTably株式会社に参画し、プロダクトマネジメント関連のアドバイザリー業務を展開。