(オープニングジングル)
山下:
みなさんはじめまして。コクヨ ワークスタイル研究所 所長の山下正太郎です。今回よりお送りする「オフィスの未来」では、デジタルツールやリモートワークの導入でワークスタイルが一新され、その中にどんな働き方やオフィスの変化があるのかを考えます。本題に入る前にですね、私の自己紹介をさせていただきます。コクヨ株式会社に入社後、戦略的なワークスタイルの実現のためにオフィスの働き方のコンサルティング業務を担当しました。具体的にどういうことかと言いますと、例えば研究機関向けには、創造性を高めるためにどういうふうな働き方、働く環境を作ればいいのかですとか、例えば営業の方がたくさんいるオフィスであれば、どうやってその営業の効率性を上げていくのか、柔軟性の高いオフィスを作っていく。そういったようなコンサルティング業務をしてきています。2011年には、グローバル企業の働き方とオフィス環境をテーマとしたメディア『WORKSIGHT』、同時に研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立ち上げまして、ワークプレイスのあり方について、実践と研究、両面から探索をしています。
特に『WORKSIGHT』では、そのメディア作りを通じて30カ国以上、のべ千カ所以上のワークプレイスに実際足を運んで、今まさに起こっているワークプレイスの変化、これから起こる予兆のようなものを、たくさん自ら見てきたところが、自分の強みかなと思います。2016-17年にはイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインという研究機関で、オフィスや働き方についてグローバルリサーチもしていました。
第一回目は、オフィスの未来ということで、そもそもオフィスというのはどういう場所なのかというところについてお話ししたいと思います。みなさん、オフィスという言葉を聞いて何を思い浮かべますでしょうか? おそらく、オフィスの扉を開けると机が島ごとにたくさん並んでいて、その島の先、つまり窓際に部長席、課長席といった役職者の椅子がある。こんなイメージを持たれると思います。我々の調査ですと、だいたい日本の90%以上がこういうスタイルのオフィスになっています。もともとこういう島状に並んだオフィスのスタイルというのは、200年以上前の産業革命以降に生まれていったスタイルなんですけども、情報処理を主にしたオフィスになっています。簡単に言いますと、島のの端っこから順番に情報が上がっていって、最後の役職者がハンコを押して次の工程に行くようなベルトコンベア式の情報の流通をサポートする効率的なオフィスですね。このような工場での方式を元にしたオフィスというものが、日本では大多数を占めますが、その工場的なオフィスのあり方というものが、近年見直されつつあるというのが、大きなポイントです。
工場で働いているブルーカラーと、それからオフィスで働いているホワイトカラーの違いを少しお話しします。そもそも工場労働というのは、働いてる人の数で出されるアウトプット量が規定される、というところが特徴です。つまり働いてる人の数が多ければ多いほどアウトプットの量が増えていく。片やホワイトカラーの考え方というのは、働いている人数によってアウトプットが規定できないというところがポイントです。例えば、働く時間をかけて多くの人数がいたとしても、有効なアイディアを出すと言うことには、なかなか繋がりづらいということを考えればわかりやすいですね。
日本ではホワイトカラーに対して、ブルーカラー的な空間を提供してしまっているところが大きな問題だと思います。例えば、工場的な文化と言う意味で、照明は特徴的です。日本のオフィスでは、机の上がどれぐらい明るいかという照度を750ルクスが標準とされています。これも基本的には工場の文化からきているもので、工場で作業するときになるべくミスがないように、それぐらい明るく照らすということを考えているわけです。けれども、創造性を上げるホワイトカラーの職場に、手元作業がしやすいための照度というのはそんなに求められないですよね。むしろ、自分のアイデアが出しやすい少し暗く、色温度の高い心地よい空間を用意してあげることが必要だったりするわけです。ということで、その工場文化、工場労働者向けの空間というものが、日本のオフィスのだいたい9割以上を占めているという現状なんですけども、これからのオフィスというものは、やはり頭数や時間では規定できない、アイディアの質をどう高めていくか、というのがポイントになりますので、個々人がパフォーマンスを発揮できて、さらに集まった人同士がコラボレーションして、新しい価値を生み出せるか、というところがオフィスに問われているわけです。
先ほど工場は750ルクスぐらいの明るさで、あるいはそれ以上の明るさで仕事をするという話をしましたけども、じゃあ逆に、創造性の高まる照度というのはどれぐらいなのか。実はいろいろ人によって異なるという研究結果がでています。人によっては、集中力が上がるのはものすごく明るい、例えばコンビニぐらい明るい光の中で集中力が高まるっていうタイプの人もいたり、あるいは逆に、カフェでちょっと薄暗い300ルクスぐらいの非常に暗い環境の方が、自分の生産性や想像力上がると答える方もいたりします。このように、人によって生産的になれる、あるいは創造的になれるっていうものが、変わってくるということが、近年いろいろとわかってきたということで、同じような均質的な空間を提供するということが、必ずしもいい話ではない。ですので、非常に個性あふれる、多様性に富んだオフィス環境をどう作っていけるか、というところが大きなテーマになってきています。
日本と海外のオフィス文化の違いについてお話したいと思います。日本の会社の場合は、終身雇用を保証する代わりに、3つの無限定性、仕事の内容、勤務地、労働時間というものを規定せずに、オフィス環境というものを作ってきたという背景があります。それぞれの人は役割が非常に不明確になっていまして、ワーカーは与えられた環境の中で、自分の役割を見出して仕事をするというスタイルが一般的だったというふうに思います。対して海外の企業は、個々人の役割は非常に明確にあるわけです。一人ひとりのワーカーがやるべきことが決まっていて、それぞれの人がパフォーマンスを発揮できるように空間を用意してあげる、というところが基本になっているわけです。特に海外は、日本の企業とは違いまして終身雇用を保証されていませんので、例えばオフィスのクオリティーが低いと、人が平気でどんどん辞めてしまう、違う場所にどんどん流出してしまうというところが起こり得るわけです。なので企業側も、オフィス作りっていうものを積極的に投資と捉えて、空間作りを熱心にしているというところが、大きな違いだと思います。
逆に日本は終身雇用を保証している代わりに、オフィス空間というものに対してはそれほど投資をしなくてもワーカーが納得してしまうということで、どちらかというとコスト意識というものが出やすいと思っています。とは言いつつも、例えば日本の中においても、いわゆるテクノロジー業界というような、人材の流動性が激しい業界に関しては、豊かなオフィスをつくって人が働きやすい、あるいは魅力的に感じて働きたいと思うような、そういうオフィスというものも増えてきていますので、だんだんと潮目は変わってきているのかなという印象を持っています。
日本と海外のオフィスのあり方の違いについて、いろいろと話しましたが、皆さん気になるのは、今後のオフィスにどういった機能が求められるかということではないでしょうか。特にコロナ禍以降、オフィスのあり方、働き方そのものに見直しがかかっている状況で、今後オフィスが残っていくのか、あるいはどういう機能が取捨選択されていくのかという点について触れておきます。
私なりに「BASIC」という言葉で今後のオフィス機能をまとめています。順番に言いますと、Booster=生産性の向上、Authenticity=精神的な報酬、Speciality=特殊用途、Intraction=N対Nのインタラクション、Confidentiality=機密機能、この5つがオフィスの中に残ってくるのではないかと考えています。詳細については、次回以降お話しします。ということで、次回からオフィスの歴史、私たちの働き方、そしてオフィスの未来はどうなるのかなど、色々な方面からオフィスの未来について考えていきたいと思います。以上、山下正太郎でした。
1. オフィスとは真面目な場所なのか?
2. オフィスの変遷
3. ハイブリットワーク
4. バーチャルオフィスの可能性
5. パッションエコノミー
6. オフィスが不要な時代の場の
山下正太郎
コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長/WORKSIGHT編集長。京都工芸繊維大学 特任准教授。
コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。2011年、グローバルでの働き方とオフィス環境のメディア『WORKSIGHT』を創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げる。2016〜2017年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン 客員研究員、2019年より、京都工芸繊維大学 特任准教授を兼任。2020年、パーソナルプロジェクトとして、グローバルでの働き方の動向を伝えるキュレーションニュースレター『MeThreee』創刊。同年、黒鳥社とのメディア+リサーチユニット『コクヨ野外学習センター』を発足。